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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)119号 判決 1993年5月18日

東京都千代田区内神田1丁目1番14号

原告

日立プラント建設株式会社

代表者代表取締役

西政隆

訴訟代理人弁理士

松浦憲三

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

田辺秀三

中村友之

秋吉達夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和63年審判第9292号事件について平成3年3月28日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

2  被告

主文同旨の判決。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和56年5月25日、名称を「原子炉格納容器用仮設開閉装置」とする発明(「本願発明」)についての特許出願(同年特許願第78117号)をしたところ、昭和63年3月23日、拒絶査定を受けたので、同年5月23日、特許庁に対して、審判を請求した。

特許庁は、同請求を、昭和63年審判第9292号事件として審理したが、平成3年3月28日、「本件審判の請求は成り立たない」との審決をした。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲の記載と同じ)

半円弧状に形成されその両端を、原子炉格納容器の頂部開口部に対応した大きさに形成された円筒状の基台略中央部に回動自在に支持される一対の主部材、半円弧状に形成され前記主部材に可撓性部材を介して牽引され両端を前記基台に回動自在に支持される複数の従部材、前記主部材と従部材の外面を球面状に覆う可撓性の防水シート、により構成される一対の遮蔽部材を前記基台に設けると共に、

前記主部材を互いに逆方向に回動し該各遮蔽部材を4半球面軌跡を描いて開閉させる駆動手段を前記基台に設けて開閉ユニットを形成し、

前記開閉ユニットの基台が原子炉格納容器の頂部開口部の上部に搭載されて構成されることを特徴とする原子炉格納容器用仮設開閉装置(別紙図面1参照)。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の構成は前項記載のとおりであり、これを適宜項を分けて分説すると、以下のとおりとなる。

<1> 半円弧状に形成されその両端を、原子炉格納容器の頂部開口部に対応した大きさに形成された円筒状の基台略中央部に回動自在に支持される一対の主部材、

<2> 半円弧状に形成され前記主部材に可撓性部材を介して牽引され両端を前記基台に回動自在に支持される複数の従部材、

<3> 前記主部材と従部材の外面を球面状に覆う可撓性の防水シート、

<4> により構成される一対の遮蔽部材を前記基台に設けるとともに、

<5> 前記主部材を互いに逆方向に回動し該各遮蔽部材を四半球面軌跡を描いて開閉させる駆動手段を前記基台に設けて開閉ユニットを形成し、

<6> 前記開閉ユニットの基台が原子炉格納容器の頂部開口部の上部に搭載されて構成されることを特徴とする原子炉格納容器用仮設開閉装置

(2)  本願発明の構成によって奏する効果は、以下の点にあると認められる。

<1> 降雨、降雪時においても迅速かつ簡便に原子炉格納容器内を雨水等から保護することができる。

<2> 原子炉格納容器内の機器据付、配管作業を能率よく行うことができる。

<3> 原子炉格納容器外の他の作業に支障を与えない。

<4> ジブクレーンを使用しないので、ジブクレーンを他の目的に使用できる。

<5> 開閉機構は、基台に取り付けられ、この基台を原子炉格納容器の頂部開口部に取り付けるので、強風を受けても頂部開口部を変形等させるようなことはない。

<6> 地上で基台に開閉機構を取り付けて開閉ユニットを予め構成し、この開閉ユニットを原子炉格納容器の頂部開口部に取り付けるので、高所での組立作業がなくなり、取付作業が安全で簡単になる。

(3)<1>  本願発明の出願前に日本国内において頒布された刊行物であることが明らかな特開昭51-38724号公報(「引用例1」)には、「地面と接する板を具備するテントにおいて、弓形ボウが側面板に対して旋回し該板間にて張り、卵形布地片がボウの間に張られ、各々のボウの布地耳固定片が縫製もしくは互いに固定する他の方法で布地に固定され、最底部のボウが地面と接する時、ボウが間に張られた布地に張力を与える弓形ボウ付きテント。」(特許請求の範囲)、「本発明によると、…2ケの垂直ボウがテントの中央にて用いられ該ボウまわりに布地の端部が固定されボウが互いに外側へ旋回できテントの片側もしくは両側が開けられる。中央面の両側の最外部ボウは水平面と接するまで下方へ下がる。…一対のボウが中央に用いられると、中央ボウを互いに遠ざけるに歯車装置が用いられ残りのボウをも中央面に対して両側下方へ動かせる。底側ボウ上のどちらかの歯車から上側ボウ上のどちらか一つの歯車へと動ける歯車装置であってどちらかの水平ボウを垂直位置に上方へ動かすかどちらかの垂直ボウを水平位置に下方へ動かすかができる。」(97頁左欄下から1行ないし98頁1行)、「地中の杭に固定される一対の三角形板の具備する半球状のテントを示す。」(97頁下から2行ないし1行)、「第2図に示される如く板12が一対のボルト26で杭25に固定された後に」(98頁上右欄1行ないし2行)、「板12と杭25との間のボルトの着脱により容易にテントを建てたりたたんだりできる。」(98頁下右欄7行ないし9行)、「ひも27が底側ボウ13に固定され案内28を介してボウ19、21及び17に固定され」(98頁上右欄11行ないし12行)と記載されており、この記載事実によれば、回動自在に三角板に支持された半円形状の一対の中央ボウ(これを「A部材」という。)とは別部材ではあるが同様に回動自在に三角板に支持された半円弧状の複数のボウ(これを「B部材」という、A部材とともに球面状の可撓性の防水シートによって覆われている。)が各A・B部材に間隔をおいて併設され、A部材が駆動手段によって互いに逆方向に回動されるにともないB部材が下方に四半球面軌跡を描いて回動される機構(A部材、B部材の回動方向により全体として開閉状態になるので、以下これを「開閉機構」という。)を認めることができる。(別紙図面2参照)

<2>  そして、この開閉機構によれば、

(a) 降雨時において迅速、簡便に開閉機構の内部のものを遮蔽し、雨水等から保護できる、

(b) 開閉機構の内部における作業を能率よく行なうことができる、

(c) 開閉機構外の他の作業に支障はない、

(d) 開閉機構をジブクレーンを使って運搬でき、仮に開閉しない雨水遮断機構をジブクレーンを使って設置していた場合には、前記開閉機構を使用すると、当該ジブクレーンを降雨時等毎に前記遮断機構の設置に使用しないですむ、

(e) 強風によつてその取付部を変形させないようにすることができる、

(f) 開閉機構をユニットとして予め構成し、高所においても低所においても、防水が必要な所の設置条件に合わせて取り付けることができる、

の効果を奏することができるものであることを認めることができる。

<3>  本願の出願前国内において頒布された刊行物である実公昭48-18979号公報(「引用例2」)によれば、「33は各開閉杆13、14、20、23、24の間隔を所定に保存するための保持索である。」(49頁右欄17行ないし19行)、「モータ27を回転してチエン25を…回動すると…開閉杆23は基部11の取付軸を中心として…回動して…順次…開閉杆を回動して全部を起立させる」

(同欄23行ないし29行)と記載されており、この認定事実によれば、開閉杆を保持索(可撓性部材でもある。)を介して互いに牽引させるように構成した開閉機構を認めることができる。(別紙図面3参照)

<4>  さらに、本願の出願前国内において頒布された刊行物である特開昭53-22612号公報(「引用例3」)には、「先ず第2図に示す如く、…タンク本体4の側壁2及び底部1を形成する。次いで…側壁2の上端縁13には…支持壁14が起設する。この支持壁上にはコンプレッション・リング15を設ける。…このコンプレッション・リング15はタンクの開口部周縁に沿って環状に形成され、かつ支持壁14と合わせてタンク本体4と屋根を密封シールする。」(60頁左欄下から5行ないし右欄9行)との記載を認めることができ、この認定事実によれば、防水屋根を支える基礎部分を設ける技術思想を認めることができる。(別紙図面4参照)

(4)  本願発明と引用例1記載の発明(「引用発明1」)との対比

<1> 一致点

本願発明の「主部材」、「従部材」は、引用発明1のA部材、B部材に、それぞれ相当するから、両者は、本願発明の構成中、半円弧状に形成されその両端を回動自在にした一対の主部材(前記(1)の<1>の事項)、半円弧状に形成された前記主部材に対し、両端を回動自在に支持される複数の従部材(同<2>の事項)、前記主部材と従部材の外面を球面状に覆う可撓性の防水シート(同<3>の事項)により構成される一対の遮蔽部材を四半球面軌跡を描いて開閉させる駆動手段を設けて一対の開閉機構を形成して(同<3>、<5>の事項)、降雨、降雪を遮蔽できる開閉装置である点で一致する。

<2> 本願発明と引用発明1とは次の各点で相違する。

(a) 本願発明が、遮蔽部材において、主部材に可撓性部材を介して牽引された複数の従部材を具備するものであるのに対し、引用発明1は、ボウ同士を可撓性の防水シートを介して連結されているものである点(相違点1)。

(b) 本願発明が、原子炉格納容器の頂部開口部に対応した大きさに形成された円筒状の基台に遮断部材を設けるものである(前記(1)の<4>の事項、したがって、主部材は当然に基台中央部に支持される((同<1>の事項)))のに対し、引用発明1は、杭25とボルトをもって開閉機構を設置しているものである点(相違点2)。

(c) 本願発明が、遮蔽部材を開閉させる駆動手段を前記基台に設けて開閉ユニットを形成し、この開閉ユニットが原子炉格納容器の頂部開口部の上部に搭載されて、仮設開閉装置となるものである(同<5>、<6>の事項)のに対し、引用発明1は、開閉機構を開閉させる駆動手段を三角板と称する台に設けてなる開閉できるユニットを形成するものであって、ユニットとして搬送でき適宜仮設できる開閉装置となるものである点(相違点3)。

<3> 相違点の検討

(a) 相違点1について

前記(3)の<3>で示したとおり、雨雪遮断用開閉機構に使用される開閉杆相互に保持索を用いる例が引用例2に開示されており、これは、本願の出願前当業者に通常の知識であり、かつ、引用発明1にも、牽引可能の可撓性部材であるひもを使って開閉杆(ボウ)を開閉させる考え方が示されているのであるから、当業者が引用例1及び2にそれぞれ記載されている発明をもって、この相違点1の事項に想到し、発明の構成として充足することに困難性は認められない。

(b) 相違点2について

まず、当該基台そのものに当業者が想到するのが困難であるかどうかについて検討すると、原子炉のような巨大建造物の設計・施工に当たっては風の影響について相応の技術的配慮をし、原子炉の付設物についても実効性のある強度、重量等を設計・施工時に採択することは当然のことであって、雨雪遮断部材をその設計上、施工上少なくとも安全性を保持できる基準に配慮し、原子炉の必要部分に設置することは常識的事項であるから(かえって、基台と称するか否かは別として遮蔽部材のみを設置することは危険であり、そのようなことは、経験則上、論理上到底考えることはできない。)、当該基台に遮蔽部材を設けることに困難性はまったく認められない。

次に、当該基台が円筒状であること、原子炉格納容器の頂部開口部に対応した大きさに形成されることは、その基台の設置場所の状況に適合させるにともない必然的に決定されることであって、本願の出願時の技術水準をもってすれば、当業者にとって常識的事項であり、この基台の形状、大きさを本願発明の前記(1)の<1>の事項とすることに困難性はまったく認められない。また、原子炉格納容器の頂部開口部に設置すること自体は、まさに、雨・雪の遮蔽のためであるから、該開口部を設置場所として選定することは当然になされることにすぎない。

(c) 相違点3について

本願発明において遮蔽部材を開閉させる駆動手段を基台に設けて形成された開閉ユニットが原子炉格納容器の頂部開口部の上部に搭載されて仮設の開閉装置となるものであるとする点は、当該開閉ユニットを原子炉を完成させるまでの間、開口部の雨・雪を遮蔽するために設けるので、「ユニット」、「仮設」として(すなわち、必要がなくなった時点では、もはや設置しない。)の要件を発明の構成に欠くことのできない事項としたものと考えられるところ、このようにユニットとして必要な時、必要な場所に、雨雪遮断部材を設けること自体常識的事項であり、引用発明1も雨・雪遮蔽可能との開閉機構をユニットとして仮設できる例を示すものであるから、かつ、この常識的事項を原子炉格納容器の頂部開口部の雨・雪遮蔽のために適用することが格別困難であるという事情も認められないから、相違点3について当業者が引用発明1に基づいて想到し、これを発明の構成に欠くことができない事項とすることに困難性は認められない。

(d) なお、本願発明の奏する効果(前記(2)の<1>ないし<6>)は引用発明1の奏する効果(前記(3)の<2>の(a)ないし(f))によれば原子炉格納容器の頂部開口部において、当業者が何らの困難性もなく推認できる程度の効果であると認められるものであるから、前記相違点1ないし3についての判断を左右するものではない。

(5)  以上のとおりであるから、本願発明は、当業者が、引用例1ないし3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許をうけることができないものである。

4  審決を取り消すべき事由

(1)  審決の理由の要点(1)(本願発明の要旨)は認める。同(2)(本願発明の効果)は認める。ただし、この効果の他に後記(2)の<1>の(a)及び(b)の効果がある。同(3)の<1>(引用例1の記載)及び<2>の引用例1の効果のうち、(a)は認めるが、(b)ないし(f)は争う。引用例1にはかかる効果の記載はない。同(3)の<3>及び<4>(引用例2及び3の各記載)は認める。同(4)の<1>(本願発明と引用発明1の一致点)、<2>(両発明の相違点)及び<3>の(a)(相違点1の判断)は認め、(b)、(c)(相違点2及び3の判断)及び(d)は争う。同(5)は争う。

(2)  取消事由1(相違点2についての認定判断の誤り)

<1> 引用発明1の遮蔽部材の開閉装置を原子炉格納容器の頂部開口部に適用することは当業者にとって常識的事項ではない。本願発明は原子炉格納容器の頂部開口部に取り付けられる仮設の遮蔽部材の開閉装置を対象としているが、かかる開閉装置の開口部への取付けはきわめて特殊な事情のもとに行なわれる。すなわち、原子炉格納容器の頂部開口部の開閉装置は、建屋基礎から高さ50mの高所に設置され、しかも、開閉装置が取り付けられる頂部開口部は、放射能の漏洩を防止するためには仮設の開閉装置を取り外した後でも頂部開口部は変形しないことが必要とされる。特に、50mの高所では相当の風力を受けることが予想され、仮設の開閉装置の取付時に、変形防止には最大の注意を払うことが必要である。また、50mの高所での取付作業は危険性をともなうため出来るだけ能率良く行なう必要がある。

これに対して、引用発明1は、「地上の植物の温床のカバー」を用途とするもので、植物のため日中は熱を取り込み、夜は冷気に対して保護し、もし必要ならば太陽光線にさらせるという作用効果を持つものであり、「テント」を地上に設置し、空間を画成し、「植物の温床」を作ることを目的としているものであって、上記のような特殊事情は目的にはない。そして、かかる「テント」はもともと空間を画成するものであって、開口部や孔を遮蔽するものではない。したがって、引用例1記載のテントを開口部を塞ぐために設置すること、ましてや原子炉格納容器の頂部開口部を塞ぐために設置することはテントのもともとの目的から離れており、当業者が容易に想到することではない。

<2> 引用発明1の技術分野は国際特許分類によれば、A45F(旅行又は露営設備)であり、その用途は明細書に「地上の植物の温床のカバー」として記載されているのに対し、本願発明の技術分野は原子炉格納容器の頂部開口部のそれであり、両者は全く関連のない分野であるから、この点からも引用発明1の開閉装置を原子炉格納容器の頂部開口部に設けることを想到することは、当業者にとって容易ではないというべきである。

<3> そして、相違点2は先ず前提として、引用発明1の開閉装置を原子炉格納容器の頂部開口部に設けることを想到する難易について判断をしたうえで、原子炉格納容器頂部開口部に基台を設けることを想到することの難易について判断すべきである。しかるに、審決は、引用発明1の開閉装置を原子炉格納容器の頂部開口部に設けることを想到することの難易について判断することなく、基台の設置のみを取り出して、形状、大きさ、設置場所等について容易性を肯定したうえ、本願発明の相違点2の構成を想到することは容易であると判断したものである。このように、この判断は、その前提事項について検討をすることなくされたものであるから誤りである。

(3)  取消事由2(相違点3についての判断の誤り)

<1> 本願発明の開閉装置をユニットとしたのは、原子炉格納容器の頂部開口部という高所での組み立て作業を無くすためであって、引用例1記載の開閉装置には、このような効果は期待できないにもかかわらず、審決は、相違点3について、この点の判断がされていない。

本願発明は50mもの高さである原子炉格納容器の頂部開口部に取り付けられる仮設の開閉装置であるため、ユニットの効果が大きいが、引用発明1のテントは地上で使用されるものであり、予め頂部開口部に合わせて基台を形成し、この基台上に一対の遮蔽部材を設けて1つのユニットを構成し、このユニットを原子炉格納容器の頂部開口部に設ける本願発明の構成は、引用例1には、一切開示されていない。

<2> 引用発明1の開閉装置は、第1図(別紙図面2)に示すように、ユニットの形状は折り畳まれた形であるとともに杭25は基板12と分かれており、このようなユニットを原子炉格納容器に適用するためには、折り畳まれたユニットを拡げる作業、拡げたユニットを同容器の開口部の大きさに合うように調整する作業が必要となるが、このような作業を原子炉格納容器の頂部開口部という高所で行なうことは危険である。これに対し、本願発明のユニットは装置と開閉機構とから成り、基台は予め原子炉格納容器の頂部開口部の大きさに形成されているので、原子炉格納容器頂部に搭載固定するだけで設置でき、原子炉格納容器の頂部開口部での組み立て作業が不要となり、引用発明1と比べて顕著な効果を有するから、審決が相違点3について、本願発明の構成を当業者が容易に想到できるとした判断は誤りである。

(4)  取消事由3(顕著な効果の看過)

<1> 審決は、本願発明の開閉装置に審決認定の審決の理由の要点(2)の<1>ないし<6>の効果の他に次のとおりの効果があることを看過した。

(a) 本願発明の開閉装置の半球面状の遮蔽部材はその開閉時において、四半球面軌跡を描いて開放し、内壁開口部16の上方空間においてのみ駆動するから、開放時に側方に出っ張らないため、外壁10の頂部を形成する外壁開口部17の建設時においても、上記開閉装置の存在又は駆動が建設作業の支障とはならず、開閉装置を取り付けたまま外壁開口部17が建設できる。

(b) 半球面状の遮蔽部材はその開閉時において、四半球面軌跡を描いて開放するため、原子炉8の上部と遮蔽部材が干渉しないことによって、原子炉収納室3内に原子炉8を収納した後においても、開閉装置は継続して使用できる。

<2> 本願発明は基台と一対の遮蔽部材から成る開閉装置で降雨、降雪を遮蔽するのに対し、引用発明1は、一対の遮蔽部材のみから成る開閉装置で降雨、降雪を遮蔽するものである。本願発明の基台には降雨、降雪を遮蔽する効果がある。さらに、次のとおりの効果があるが、審決はこれを看過した。

(a) 基台は一対の遮蔽部材とともにユニットを構成するから、基台を原子炉格納容器頂部開口部に戴置するだけで簡単に開閉装置を取り付けることができ、原子炉格納容器の頂部開口部上という高所での危険な組立作業を省略することができる。

(b) 基台は円筒状に形成され、このため、出入口扉、換気扇、遠隔操作盤(以下集合的に「出入口扉等」という。)を取り付けることが出来る。原子炉格納容器では、頂部開口部に位置する原子炉内に入って作業する必要があるため、基台を円筒状に形成してここに出入口扉を作る余地を残したものである。本願明細書添付の図面(別紙図面1)によれば、本願発明の基台には、出入口扉41、換気扇42、遠隔操作盤43が取り付けられるが、出入口扉41は格納容器内に設置された原子炉8内に作業者が出入りするための扉であり、換気扇42は原子炉格納容器内の空気を換気、排出するための装置であり、遠隔操作盤43は駆動手段を操作するものである。

<3> 審決は、引用発明1の開閉装置が(b)ないし(f)の効果を奏すると判断するが、上記開閉装置は「地上の植物の温床のカバー」として用いられるものであり、上記効果は奏しない。(b)ないし(f)の効果は原子炉格納容器頂部に取り付けて発生する効果であるところ、引用発明1のテントは、基台がなく、かつ開口部には通常用いられないにもかかわらず、かかるテントを原子炉格納容器頂部に取り付けることを前提として、(b)ないし(f)の効果を奏するとするのは失当である。かかる誤認の結果、本願発明の奏する効果は、引用発明1の奏する効果から、原子炉格納容器の頂部開口部において、当業者が容易に推認できる程度の効果であると誤って判断した。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認め、同4の主張は争う。

2  本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の違法はない。

(1)  取消事由1について

<1> 一般に建造物に、人の出入り、物の搬出のために開口部が設けられている場合、雨、雪、風等に配慮するため、開口部の大きさ、形、位置、用途、使用状況等に応じ、それに適合する遮蔽部材を設けることは一般社会における常識である。原子力発電所建設時において、原子炉格納容器に開口部を設け、その開口部から資材の搬出入をすることは当業者にとって周知の事項であり、建設工事中同容器の開口部を遮蔽部材により覆って、雨、雪、風等を防ぎ作業効率を上げ、工事終了後これを取り外すことも、当業者に広く知られていたところである。そして、引用発明1に係る開閉装置は、雨、雪、風等を遮蔽する効果を奏するものであるから、当該効果の奏する限度で、これを原子炉格納容器に適用することを思いつくことに困難性がないことは全く自明のことである。このように、引用発明1の開閉装置を原子炉格納容器の頂部開口部に適用することは当業者にとって余りにも常識的であるので、審決はあえてこの点について議論することなく、それを設置する基台についての容易想到性を判断したのである。

<2> 遮蔽装置を取り付けるのに際して、取り付ける対象に合わせて枠材(本願発明における基台)を設けることは、当業者の技術常識であり(具体例として、甲第6号証の支持壁、乙第1号証の水切用傾斜フランジ、乙第2号証の立上り、乙第3号証の立上り壁)、構造物の規模、構造物の使途等の情況に応じ、枠材が大きくなれば、必要に応じて枠材部分に出入口扉等を取り付けることは当業者にとって、自明のことである。

<3> なお、国際特許分類は、技術の機能面に着目し使用分野を無視して展開した分類箇所と、使用分野に着目した分類箇所とから構成されている。類似する技術手段であっても、機能分類箇所が存在しない場合には、それぞれの使用される分野の分類が付与され、一方、使用分野が異なっていても、機能分類箇所が存在すれば、機能分類が付与される。このように、国際特許分類は、技術分野の親近性と必ずしも一致するように構成されていない。したがって、分類記号が異なるから技術分野が異なり発明の困難性が高くなるとはいえない。

本願発明の特許出願公告公報(甲第2号証)には、3つの国際特許分類が付与されており、「原子炉格納容器」以外に、これよりも上位の分類として、「建設作業のためのその他の装置又は手段」、及び「テント又は天蓋一般」に関する分類が付与されている。一方、引用例1には、「旅行又は露営設備」に関する分類が付与されている。「建設作業のためのその他の装置又は手段」、及び「テント又は天蓋一般」に関する技術は「旅行又は露営設備」に関する技術と技術的関連性があることはこれらの分類のタイトルからみても推量できるものである。

(2)  取消事由2について

<1> 原告主張の本願発明における「高所の組立作業をなくすことができる」というユニットの効果は、原子炉格納容器と称する建造物に特有の効果ではなく、一般人にとってすら自明の事項であり、審決の理由の要点(2)<6>において、本願発明の効果として摘示し、(4)<3>(d)において、当業者がなんらの困難性なく推認できる効果であると判断している。

<2> 原告は、引用発明1の開閉装置を本願発明の開閉ユニット機構とするための調整作業等を高所で行なうことの困難性を主張するが、この調整作業等を高所で行なうということ自体が常識を逸したことである。高所の建造物については、ユニット化を進め、地上において完成させた物体自体を高所に据え付けるという工程を経るのであり、このことは当業者の技術常識ともいうべきものであるから、原告の主張は、その前提において失当である。

第4  被告の主張に対する原告の反論

基台に出入口扉等を設けることは、特許請求の範囲に記載されていないが、かかることは円筒状の基台を設けたことによる効果である。すなわち、円筒状の基台は単なる枠体と異なり、一定の高さと内部空間を有しているから、必要に応じて、出入口扉等を設けることができるのである。単なる枠体では、枠材が大きくなっても、出入口扉等を設けることができる一定の高さと内部空間を有することになるとは限らず、枠材が大きくなることと、枠材に出入口扉等を設けることとは全く関連性はない。

引用例3(甲第6号証)の支持壁14は単に屋根16を支持するものであり、引用例1(甲第4号証)には、枠体が円筒状であることの記載もなく、枠体に出入口扉等を設けることの記載もない。さらに、乙第1号証の水切用傾斜フランジ6は円環状の取付環体の一部であり、円筒状に構成されていないし、出入口扉等も取り付けられない。乙第2号証の立上り部1は水平な受部4と庇部6との間を連結するもので、円筒状にも記載されていないし、出入口扉等が設けられていない。乙第3号証には立上り壁2が開示されているが、立上り壁2は円筒状に記載されていないし、出入口扉等も記載されていない。

第5  証拠関係

証拠関係は本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3は当事者間に争いはなく、また、本願発明が審決摘示のとおりの効果を奏すること、各引用例の記載が審決摘示のとおりであること、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点が審決摘示のとおりであることも、当事者間に争いはない。

2  成立に争いのない甲第2号証(本願発明の特許出願公告公報)によれば、次の事実が認められる。

本願発明は原子力発電所の建設において、原子炉格納容器内に各種の機器、原子炉等を搬入し、据えつける作業が通常約20箇月間の長期にわたって継続されるので、これらの期間を通して、降雨、降雪時の対策が問題とされていた。本願発明は、これらの期間中の降雨、降雪時においても、煩雑な応急措置を取る必要がなく、迅速かつ他の作業に支障を来たさない原子炉格納容器用仮設開閉装置を提供することを目的として、特許請求の範囲記載の構成を採択することにより、審決の理由の要点(2)摘示に係る作用効果を奏するものである。

3  原告主張の審決の取消事由について検討する。

(1)  取消事由1について

<1>  引用発明1の遮蔽部材を原子炉格納容器の頂部開口部へ適用することの容易性について

(a) 前記のとおり、本願発明は、原子炉格納容器の頂部開口部に対応した大きさに形成された円筒状の基台に遮蔽部材の開閉装置を設けるものであるのに対し、引用発明1は、杭25とボルトをもって開閉機構を設置しているものである点(相違点2)で相違することは当事者間に争いがない。

(b) しかして、本願発明も引用発明1も駆動手段を設けて遮蔽部材を開閉させて降雨、降雪を遮蔽できる開閉装置に係るものである点についても当事者間に争いがないところであるが、引用発明1の遮蔽部材であるテント(防水シート)を開口部のある装置の遮蔽に用いることは、常識の域に属する事項である。現に成立に争いのない甲第4号証(引用例1)にも「種々の型式のボウがバギーや自動車の上にて用いられ折りたたみ可能である」(1頁左欄本文13行ないし14行)と記載されているが、さらに、この点について検討を進める。

当事者間に争いのない審決摘示に係る引用例3の記載及び成立に争いのない甲第6号証(引用例3)によれば、引用例3が地下に底部及び側壁を埋設した地下タンクの建設方法において、地下タンクを降雨、降雪から遮蔽する手段として、その頂部開口部に防水屋根を設置すること、その設置にあたり、これを支える基礎部分として支持壁及びコンプレッション・リングを地下タンクに設けることを開示していることが認められる。加えて、成立に争いのない乙第5号証(特公昭50-16564号)には、開口マンホール又はそれに類した開口を覆うための折り畳み式テントフレーム、成立に争いのない乙第6号証(特開昭51-99388号)には、船倉への荷物の積み降ろしのために荷物の出入口に設置する仮設ドーム型遮蔽幕が記載されていることが認められ、これらの事実によれば、防水屋根同様、遮蔽の目的に用いられるテント又は遮蔽幕を開口部の仮設の遮蔽装置とすることは、本願出願前当業者において、周知の事項であったと認められる。

しかして、成立に争いのない甲第5号証、前掲甲第4、第6号証、乙第5、第6号証によれば、上記のような降雨、降雪を防ぐ手段としてのテントによる仮設遮蔽装置は、農業、貨物の搬入、荷役、建設、工事等の分野で利用されていることが認められ、原子力発電所建設も建設の分野に属するものであるから、テントによる仮設遮蔽装置を用いる分野として特異な分野であるとは認められない。

したがって、引用発明1のテント(防水シート)である遮蔽部材の開閉装置を原子炉格納容器の頂部開口部に適用することは、当業者にとって容易になし得るところと認められる(なお、審決のこの点についての判断は明示的ではないが、審決は、前記のように、テントによる遮蔽手段の利用が常識の分野に属することを踏まえ、引用例3を先行技術として対比し、かつ、これら周知の技術的事項に基づいて、その容易性について黙示的に判断したうえ、基台についての判断に及んだものと解せられるのである。)。

原告が主張する原子炉格納容器への取付けの特殊事情は、テントの同容器への適用を否定する根拠となるものではなく、高所にある同容器に適用するにあたって、当然予想される設置、取外しにおける注意事項又は作業性の問題にすぎないものであり、また、引用発明1のテントの用途等に関して原告が主張するところも、テントによる開口部遮蔽の機能を否定するものではないから、この点に関する原告の主張は理由がない。

そして、原子炉格納容器の頂部開口部に遮蔽部材を用いるにあたり、その設置のため、頂部開口部の大きさに対応した円筒状の基台を設けることは、前記引用例3の記載に、審決摘示(審決の理由の要点(4)<3>(b)第1段)のような原子炉格納容器建設にあたって配慮すべき事項を勘案すれば、当業者として容易に着想し得るところというべきである。

さらに付言すれば、成立に争いのない乙第4号証(柏崎刈羽原子力発電所1号機の建設と試運転」火力原子力発電1986年6月号所収)にはPCV(原子炉格納容器)の建設に関し、「図4に示すテントドームを開発し、組立中のPCV上部を覆って降雪および強風を防ぎ作業効率を上げた。」(26頁「(1)冬季の作業効率の向上対策」欄4行ないし6行)、「さらにPCVの組立が完了しPCV内部工事の段階になってからは、図5に示すテントドームを使用し、降雨降雪対策とした。」(28頁本文左欄4行ないし7行)旨の記載があることが認められ、この記載によれば、PCVの組立作業が完了するまでは、図4に示されたPCV全体を覆う形のテントドームが降雪および強風を防ぐ目的で本願出願前の昭和55年12月頃から同56年10月頃まで使用され、図5に示された本願発明の仮設開閉装置に相当するテントドームは、PCV内部工事の段階において、降雨降雪対策として用いられたことが認められ、PCV建設において、降雨、降雪対策として仮設のテントドームを用いることは本願出願前より行なわれていたことが認められるのである。

<2>  原告は、国際特許分類の観点から、本願発明と引用発明1とは技術分野を異にする旨主張する。しかし、国際特許分類表は、機能面及び応用面の両面から技術分野を区分けし、細分化して、技術主題事項の検索を容易にしているものであって、特許法29条2項の進歩性の判断をするために定められたものではない。進歩性の判断は個々の技術を具体的に対比して行なうべきものであり、本願発明の相違点2の構成を想到することに困難性がないことは既に判示したところであるから、この点に関する原告の主張はその前提において失当である。

<3>  よって、相違点2に対する審決の判断に誤りはない。

(2)  取消事由2について

<1>  前記のとおり、本願発明と引用発明1との相違点3は当事者間に争いがなく、当事者間に争いのない審決の理由の要点(2)<6>によれば、本願発明は予め地上で基台に開閉装置のユニットを組み立てた後、これを原子炉格納容器の頂部開口部に取り付けるもので、高所での組立てを予想していないものであるところ、原告の主張は、地上で行なわれることが予定されている引用発明1の開閉装置のユニットの形成作業を本願発明の開閉装置のユニットに適用するにあたり、そのユニットの形成作業を、ユニットが用いられる高所に位置する原子炉格納容器の頂部開口部で行なうことしか想到し得ないことを前提としている。しかし、ユニットはその物の構造、用途、設置場所等に応じ適宜の場所で組み立てられるもので、工場で組み立てて設置現場へ運搬するか、資材を設置現場まで運搬して設置現場で組み立てるか、また、高所が設置場所である場合、地上で組み立てた後高所に運搬するか、資材を高所まで運搬し、高所で組立作業を行なうかなど各種の手段があることは広く知られているところであり、このことは当裁判所に明らかである。本願発明における前記のような地上におけるユニットの組立形成作業も、設置場所が高所にある原子炉格納容器の頂部開口部であること及びその遮蔽装置の構造に照らせば、当業者として当然採択する手段であると認めることができるのであるから、本願発明におけるユニット形成が格段の効果を奏するものとはいえない。

この点に関する原告の主張はその前提において失当である。このように、本願発明における開閉装置の組立作業を高所で行なうことがないようにした効果は、引用発明1自体に直接的に開示されていないとはいえ、同発明同様開閉装置をユニット化したことによる当然の効果であり、審決も相違点3の判断にあたり、そのことを前提として、「このようにユニットとして必要な時、必要な場所に、雨雪遮断部材を設けること自体常識的事項であり」(審決の理由の要点(4)<3>(c))と摘示したものと理解でき、原告主張のような判断の遺脱はない。

<2>  よって、相違点3に対する審決の判断に誤りはない。

(3)  取消事由3について

<1>  原告主張の(4)<1>の効果について

前掲甲第2号証によれば、本願公告公報には、本願発明の作用として、「半球面状の遮蔽部材はその開閉時において、内壁開口部16の上方空間においてのみ駆動するから、外壁10の頂部を形成する外壁開口部17の建設時においても、前記開閉装置の存在又は駆動が建設作業の支障とはならない。」(5欄39行ないし44行)との記載、また、本願発明の実施例についての説明として、「遮蔽部材は、その作動時において、半球面軌跡を描いて開閉されるので、作動のための空間が、内壁開口部の上方にのみ限定される。このため、他の建設作業に支障を与えることはなく、原子炉格納容器への機器据付、配管作業のために長期間にわたって利用できる。」(9欄16行ないし21行)との記載があることが認められる。このように、遮蔽部材が内壁開口部の上方空間においてのみ半球面軌跡を描いて開閉駆動されるものである以上、原告主張の(a)の外壁開口部建設についての作業上の効果は、これにより奏せられる当然の効果である。また、原告主張の(b)の開閉装置の継続使用の効果も、審決認定の<1>ないし<4>の効果と同様に、遮蔽部材が半球面軌跡を描いて開閉する開閉装置であることによって奏せられるものであるが、このような開閉装置が遮蔽を必要とする期間継続して使用できることは自明のことである。しかも、前記判示したように、上記開閉装置を原子炉格納容器に頂部開口部に適用することは、当業者が必要に応じてなし得ることであるといえる以上、この効果をもって、本願発明に特有の効果とは認めることはできない。

<2>  原告主張の(4)<2>の効果について

原告主張の基台の有する効果(a)は、基台が原子炉格納容器の頂部開口部に設置されユニットを構成する以上当然奏せられるものであることは、既に説示したところから明らかである。次に、原告主張の基台の有する効果(b)については、前掲甲第2号証によれば、本願発明の一実施例(別紙図面1の第3図)では、基台は、出入口扉等を有しているが、出入口扉等を取り付けることは、その要旨とはされていない。しかして、基台に一対の遮蔽部材を取り付ける本願発明の構成において、「原子炉格納容器の頂部開口部に対応した大きさに形成された円筒状の基台」が出入口扉等を取り付けるのに適していることが基台の有する格別の効果といえるか検討するに、遮蔽部材を取り付ける設置箇所ないし設置対象の大きさ、形状等に合わせた基台を用いることは当業者にとって当然のことであるところ(したがって、開口部が円形であれば基台も円形又は円筒状となる。)、基台に一対の遮蔽部材を取り付ける本願発明の構成において、装置の構造上、基台部分が出入口扉等を設けるのに適していることは容易に想到できることであって、基台を出入口扉等を設けることができる大きさ、形状にすることは、遮蔽装置の規模、大きさ、使途等に応じ、当業者が必要に応じて適宜なし得ることと認められるから、本願発明の基台が出入口扉等を取り付けるのに適しているものであるからといって、そのことに格別の意義は認められない。

上記のとおり、本願発明のように基台を構成すること及び開閉装置をユニット化すること自体、当業者が必要に応じてなし得ることであり、開閉装置の取付けを容易にし、出入口扉等を設けることができるという基台の効果及び高所作業での取付けの容易さ、組立ての安全性が向上するというユニット化の効果も、従来の基台及びユニット化技術の有する効果から予測できる程度のものにすぎない以上、原告主張のこのような効果をもって特段のものということができない。

<3>  審決認定の本願発明の奏する効果の<1>ないし<6>と引用発明1の(b)ないし(f)の効果について

引用発明1の奏する効果の(b)ないし(d)は、仮設の開閉式の遮蔽装置又は半球面軌跡を描いて開閉する遮蔽装置によって奏される効果であると認められるから、引用発明1の開閉装置を原子炉格納容器の頂部開口部に適用すれば審決認定の本願発明の奏する効果の<2>ないし<4>の効果が得られることは、容易に予測できることである。本願発明の上記効果が引用発明1の上記効果からなんらの困難性もなく推認できるとした審決の判断は相当である。

また、審決認定の引用発明1の奏する効果の(e)及び(f)については、かかる効果が、前掲甲第4号証に開示されているとは認められないが、審決認定の本願発明の奏する効果の<5>及び<6>は、開閉装置の基台を設置箇所の大きさに合わせたものとしたこと及びそのような基台を用いて装置をユニット化したことによって奏される効果であると認められるところ、上記判示のとおり、かかる効果は、基台及びユニット化技術の有する効果程度のものにすぎないと認められ、これらの効果をもって特段のものということはできないから、本願発明の<5>及び<6>の効果は、相違点2及び3についての判断を左右するものではないとした審決の判断は相当である。

(4)  よって、本願発明は、当業者が、引用例1ないし3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許をうけることができないものであるとした審決は相当である。

3  以上のとおりであって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面1

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別紙図面2

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別紙図面3

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別紙図面4

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